わたしたちが、なぜいま「風舟」という小さな舟に乗っているのか。
果たしてこの舟はどこへ向かって進んでいくのか。
対話の中のキーワードや問いから、風舟のベクトルを感じとっていただけると嬉しいです。
西田 卓司 [にしだ たくじ]:左
現代の美術家 | 「風舟」発起人
2016.11新潟市西区内野駅前「ツルハシブックス」の閉店後から、これからの本屋のカタチを模索。3年間の越境経験「水戸留学」と1年間の旅人生活を経て2019.5から阿賀町へ。阿賀黎明高校魅力化プロジェクト「黎明学舎」を経て、5年ぶりに本屋さんに復帰。劇場のような空間づくりが得意。コーヒー味のパンやお菓子と本屋をめぐりつつ電車移動中に本を読む旅が好き。
小川 愛媛 [おがわ えひめ]:右
「風舟」スタッフ
中高生時代の課外活動の経験から、大学では生涯教育学を専攻。学生時代は中高生や社会人向けの学びの場づくりに関わる。一度自分とは異なるカルチャーの人たちに揉まれてみようとミスマッチ上等で東京のメガベンチャーに入社。想像以上に揉まれながら約2年半働き、2021.9から阿賀町へ。巻き込まれにいくのが得意。ふとした瞬間を写真に撮るのと、書くことが好き。
西田卓司(以下西田):僕は以前から「世界を驚かせるような創造ができる場とは?」という問いを持っていたんですよね。「創造」にはフラットなコミュニケーションと偶発性が大切だと。新潟大学の近くで「ツルハシブックス」という本屋をしていた時、目的が違う人が偶然出会って話して新しいものが生まれるような場面を何度も見てきて。そういう「場」を外から眺めているのが好きです。
小川愛媛(以下小川):私は「自分のアイデンティティをどうつくるか?」が最初のキーワードでした。中高一貫校に入学して半年で部活を辞めてしまって。親戚や友人に「部活なにやってるの?」と聞かれて「〇〇部!」って答えられないのが思いのほかつらかったんです。何か部活に代わるものが欲しくて、アイドルの嵐が好きという単純な理由でメディア関係のことをやってみようかなとネットで探して、中学生でも参加できる映画制作や高校生新聞の記者活動とかをやっていました。そんな感じだったので、自分はずっとメディアに興味を持っていると思い込んでいたんですが、進路選択のときに気づいちゃったんです。「いや、わたしメディアに興味があるんじゃなくて、学校外の人との出会いが好きだったのかも」って。その気づきがすごく印象的で、キーワードや問いが変化したり昇華される瞬間が好きになりました。
西田:「アイデンティティ」は僕も大きなテーマです。「ツルハシブックス」時代に大学生がたまに悩み相談に来てたんですけど、その二大悩みは「やりたいことがわからない」と「自分に自信がない」だったんです。それって両方ともアイデンティティと直結しているんですよね。「自分らしさ」を自分の夢ややりたいこと、もっと言えば仕事で表現しなければいけないと思っている。それって本当なんだろうか?って。頭で考えるばかりじゃなくて、もっと肩の力を抜いて、感覚を大切にして、もっと委ねていいのではないかな、と。
西田:つくりたいのは、委ねられる「場」かな。「委ねる」と「依存」って全然違うと思うんですよね。「委ねる」は自分の輪郭がうすくなる、溶かしていくという感覚。「依存する」は「自分」があって「依存」する先がある。「委ねる」というとき、自分と場はかなり一体化している。「個人」「自分」が独立した存在であることはいまの社会システムの前提になっているな、と。他者や環境とは違って、輪郭(境界)をはっきりしたままの「個人」「自分」を生きようとすること自体が苦しさなのでは?と。
小川:自分にとって一番「自由」だったなと思えたのは演劇の舞台本番のときの経験なんです。練習の時はまだ役と一体化していなくて、頭のどこかで「うまく演じられているか」や「台本通り話せているか」等の評価を気にしていたんです。でも本番って不思議な力があって、他の演者の高まりや臨場感が練習のときとは段違いで。気づいたら私、台詞外の言葉を発していたんです。でも、それに応えるように他の人もお芝居を続けていく。その瞬間が私にとっての一番の自由だった。だから風舟でも、頭で考えて「こう振る舞おう」と意志力で行動するのではなく、「気づいたら〇〇しちゃった」位軽やかな自分でいられる空間をつくりたいんです。アドリブがあっても、そのままストーリーは続いていくから大丈夫だよって。
西田:そうか。「委ねる」っていう「自由」があるのかもしれないですね。そういう意味では、小川さんは風舟のスタッフでありながら最大のお客なのかもしれません。
小川:私もお客は自分だな、って思います(笑)。リーフレットにある言葉が近いかな。委ねる状態には段階あるような気がしているんです。一体どんな場所かわからないけど、風舟のキーワードになんとなく引っかかってくれて、ちょっと行ってみようかと足を運ぶ。これが最初の委ねてみる段階。そしてこの場に来て、思うままに過ごす先にもう一つ先の「委ねる」があるような気がする。でも思うままって意外と難しいんですよね(笑)。だから一緒に横に並んで「思うまま」って何なんだろうねって、考えられたらいいなと。
西田:人ってなにか目的を持って場所に向かうけど、風舟の場合は、その目的をもっと直感的ななにか、感覚で吸い込まれていってしまうような、そんな場所だよね。場所的に偶然性が起きにくいんだけど、だからこそ直感や感覚に委ねやすいというか。僕は「旅」なんじゃないかなと。
風舟では一箱本棚オーナーを募集しています。
何かを表現したい。
面白い人とつながりたい。
好きなものや問いを共有したい。
理由は人それぞれ。棚の使い方も人それぞれ。
置きたい本がある。
それだけで本棚オーナーをはじめるには十分すぎると思うのです。
あなたの本棚を、風舟でともにつくってみませんか。
何でも一人で出来てしまう人って確かにすごい。
でも、巻きこまれながら一緒に楽しめちゃう人だってすごいし、その間にも無数の関わり方があって、いろんな人がいるからこそ一度しかない場がつくられる。
風舟では今後イベントやマルシェを開催予定です。
まずは参加者として顔を出してみてもいいし、お手伝いという関わり方も歓迎です。
そうやって風舟で過ごすなかで、気づいたらあなたも風舟の作り手になっているかもしれません。
肩の力をちょっと抜いて、風舟をともにつくってみませんか。
西田:「旅」と「旅行」って対比されたりするのだけど、予定が決まっていて行程通りに進んでいくのが「旅行」で、「旅」はひとまずバックパック持って、バンコクのカオサンストリートに立て、みたいな。たぶん、そのどっちでもない、あいだにあるグラデーションな「旅」をつくっていきたいんだと思う。それは、いまいる場所から「越境」して、少し自分を不安定な状態にした上で、「他者」や「環境」、つまり「場」によって影響を受ける「旅」。自分がひとりじゃなくて、「委ねている」状態になれるような「旅」。
小川:なんか分かるなあ。何となく面白そうな匂いのする場所にとりあえず行ってみて、あとはその時の自分の五感に委ねるような旅をするのが好きです。でも、ちゃんと自分のなかにほっとできる時間も残しておくのが安心して委ねる上で大事だな、って私は思っています。たとえばそれは、宿とか移動時間とかカフェとかで一人になれる時間みたいな。むしろその行き来が好きなのかも。自分の頭だけで考えるのではなく、そのとき誰といて、何をして、どんな感情が生まれたのかをもとに、「普段のわたし」と「旅でのわたし」の間を巡ってみる。そのなかで「自分ひとりじゃ気づけないことに気づく」時間が、私にとって「旅」の醍醐味かもしれないです。
西田:越境した先で、他者や新しいものとの出会いを通じて、自分に出会う、自分を再発見するのがつくりたい「旅」なのかもしれないですね。「風舟」がそんな旅ができる場所であると同時にそんな旅が始まる場所となったらよいなあ。
小川:そうですね。スタッフであり、私自身もそんな旅の道中にいる旅人だからこそ、一緒にこの舟に乗ってくれる旅仲間と出会えたら嬉しいなと思っています。